私たちの目指すもの

  • 依田真門

    過去四半世紀に地球規模で起きた変化は、知や情報の概念を変え、私たちの仕事のやり方や、働く上で必要なスキルの中身も一変させてしまいました。当然の様にマネジメントやコラボレーションの方法、人の育成や評価の基準も変え、何よりコミュニケーションの重要度を大幅に引き上げました。

    とはいえ、それに合わせて社会の仕組みや組織の文化も変わってきたかと言うと、そうは言えません。変化に追いつかない組織運営、実態と乖離した意思決定の仕組み、現実を把握できないままに判断を迫られる経営者層など、構造的にも価値観の面からも、従来の慣例が幅を利かせ、しわ寄せが個人に集中している例が、まだまだ多く観察されます。

    個人も組織も変わらないといけません。この点に異論を挟む人はまずおられないでしょう。変えるためには推進力が必要です。意外に感じられるかもしれませんが、ここでのキーワードは「物語」です。すなわち、従来の(殆どが無意識で乗っかってきた)個人や組織の「物語」を見直し、自分の、また自分たちの本領を発揮できる新しい「物語」(オールタナティブストーリー)を見出すことが初めの一歩なのです。

    人は皆、物語的世界に生きています。そして私たちはしばしば、自ら思い込んだ“単一の”物語に囚われたまま、自ら行動を制限しています。まずは、そこから抜け出さなければいけません。多様な物語と出会って、視野を広げる中から“別様の”自分(達)の姿、オールタナティブな自分(達)の物語を、構築していくことが必要なのです。

    個人も組織も、今は大きな転換期の渦の中にあります。自分の、自分達の、本領が発揮される物語を、広い視野から再構築する活動を今まさに開始する時期に来ています。世界全体の動きと変化に、多くの日本企業が遅れを取っている、というのが私たちの実感であり、大いなる危機感です。

    皆さんの本領発揮の物語、是非、ご一緒に創っていきましょう。

  • 代表プロフィール

    依田真門

    世紀の変わり目のころ、アフリカのガーナに商社員として5年間駐在した。30代半ばで海外のプロジェクトを何本も成功させていた私は、ここで一旗揚げようと意気揚々赴任先に出向いた。が着任後間もなく、マネジメントに行き詰った。スタッフに指示しても動いてくれない。動いてもイメージから大幅にズレている。注意すると黙って頷くものの、明らかに反省などしていない。現地語で雑談するスタッフらの笑い声が、全部自分の悪口に聞こえてきた。すべてが空回りし始め、地獄の様な日々になった。

    半年ほど経って、転機が訪れた。関係先のお葬式に出席した際、そこでのルールが日本の感覚と大きく異なっていたことに驚いた。それまで意識していなかった”違い”が可視化された。自分の「当たり前」が現地の「当たり前」でない、と気づいた。ということは「彼らの当たり前」を私に理解されていないと、皆が感じている。その事にやっと認識が至った。いま思えば低次元の話だが、それが自分の現実だった。

    その後は、小さな意思決定もスタッフに相談したり、会議を開いてメンバーの意見を聞く様になった。アイデアを語って意見を求めると、作業の進め方やメッセージの出し方など細かくアドバイスをしてくれた。仕事が一気に動き出した。関係は改善され、空回りは過去のものとなった。

    とはいえ、まだまだ問題山積だった。個々の行動は修正できても、ヒト、カネ、モノの資源をどこにどう充てるかといった応用問題はお手上げだった。新商品プレゼンの段取りは分かってきたけれど、商品の導入にあたって、代理店をどう選定し、どのような分業体制で実際のマーケティングをどう進めるか、というイメージは描けなかった。迷走は続いていた。

    そんな時、ある講演会で大学の先生が、ガーナの作法やガーナ人の心を知りたければ、歴史に現れる英雄達の物語を見るといい、という話をしていた。早速この先生を訪ねて詳しく聞いたところ、この国の英雄達が人心をつかみ、勢力を拡大していくために、どのように動き、どんなメッセージを発したのか、具体的なストーリーを聞かせてもらえた。長らく不可解だった多くの事柄が、やっとつながり始めた。

    自分なりの見取り図が描けるようになれば、あとはスタッフの力を借りればいい。灰色だった仕事のイメージがクリアになって、拠点運営の絵が描けるようになった。自分にとって重要な情報が現地の物語の中にあると分かって「文化を知るとはこういうことか」と、強く感銘を受けたものだった。

    物語には価値観や規範が反映されている。互いの物語をしっかり聞きあうだけで、関係は大きく変化する。当初は理不尽に聞こえた話も、物語で示されると共感できるものになってくる。バラバラだった組織も、共に物語を描いていくことでつながり始める。

    こうした経験を通して“物語が世界を変える”と確信するようになった。研修はこれを実現する手段だ。協力できる仲間と積極的に連携し、人と組織の高いパフォーマンスの実現を支えていく。「物語」は人間の力を強める。「物語」は難題に解決の道を拓く。「物語」は社会や組織の別様の可能性を拓く。「物語」は世界をかえる。

    個々人や組織が多様に連携しながら互いの本領を発揮する。未来を拓く新しい「物語」を、様々な場で奮闘されている皆さんと共に描きたい。


    依田真門(よだまこと)

    ◆株式会社エイシア 代表取締役
    ホープワーク協会 会長
    ◇跡見学園女子大学 兼任講師(世代別コミュニケーション論、ファシリテーション)
    ◇拓殖大学 兼任講師(グローバルコミュニケーション論、メディアコミュニケーション論)
    〇早稲田大学理工学部金属工学科卒業(学士)
    〇立教大学大学院 異文化コミュニケーション研究科卒業(修士)